資金繰りが悪化しそうなとき、すぐに取れる具体的な4つの改善策があります。これらを早めに実行することで、資金繰りを安定させ、不安を軽減することができます。なぜ早期対応が重要なのかというと、原因を早く把握することで、改善のための選択肢が増えるだけでなく、具体的な対策を講じるための時間を稼ぐことができるからです。また、早い段階で手を打つことで、状況が深刻化し、経営に大きな影響を与える事態を未然に防ぐことができます。
この記事では、資金繰りが悪化しているかどうかを判断する方法や、悪化の主な原因、そしてそれに対応するための具体的な解決策を解説します。さらに、これまでに支援してきた中小企業の事例を交えながら、健全な資金繰りを維持するための実践的なアプローチをお伝えします。
この記事を読み終える頃には、資金繰りへの不安が和らぎ、経営を安定させるための明確な手順を理解できるはずです。
資金繰り悪化とは?
資金繰り悪化とは、企業において収入よりも支出が上回り、日々の支払いが難しくなる状態を指します。このような状況では、手元資金が不足し、運転資金の確保や支払い計画に支障をきたします。
資金繰り悪化の状況は、大きく分けて以下の2つのパターンに分類されます。
業績拡大時の資金繰り悪化
まず、業績拡大時の資金繰り悪化とは、売上拡大に伴い、仕入や設備投資が増えるため、運転資金が一時的に不足するケースです。このパターンでは、手元資金が増える前に支出が増えるため、適切な資金計画が必要です。
(補足)運転資金とは?
運転資金とは、企業が日常の経営活動を維持するために必要な短期的な資金です。具体的には、仕入、製造、販売などの活動に使用され、売上を生み出すために欠かせません。運転資金は、次の要素を基に算出されます。
運転資金 = 売上債権 + 棚卸資産 - 仕入債務
売上債権: 商品やサービスを販売したが、まだ代金を受け取っていない売掛金のことです。
棚卸資産: 仕入れたがまだ販売されていない在庫(原材料や製品など)です。
仕入債務: 商品や原材料を仕入れたが、まだ支払っていない買掛金です。
製造業や建設業では、プロジェクト完了までの期間が長く、支払いが先行するため資金繰りが悪化しやすい傾向があります。例えば、ある建設会社では、大型プロジェクトの受注に伴い材料費や人件費などの多額の先行資金が必要となり、急激に資金繰りが悪化しました。入金は工事完了後であり、それまでに資金ショートの危険が高まる状態でした。このような状況では、資金計画や支払い条件の見直しが不可欠であり、適切な対応が早期に求められます。
業績低迷時の資金繰り悪化
次に、業績低迷時の資金繰り悪化とは、売上が低迷すると、企業の手元資金が減少しているケースです。このケースの資金繰り悪化では、私の今までの経験上、以下の3つの要因により手元資金が圧迫されているケースがほとんどです。
- 赤字による資金流出
売上が減少しても、家賃や人件費といった固定費に加え、材料費などの変動費の支払いは継続する必要があります。その結果、支出が収入を上回り、赤字が続くことで手元資金が次第に減少してしまいます。
- 設備投資の負担
事業規模に対して過大な設備投資を行った場合、その支払いが売上低迷期に重なると、資金繰りが一層厳しくなります。特に、投資の成果がすぐに現れない場合、負担が大きくなり、手元資金が圧迫されます。
- 借入金の返済負担
借入金の返済は、売上が低迷しても変わらず続ける必要があります。元本返済の据置期間の終了に伴い、返済負担が一層重くなり、資金不足に陥るケースです。
この章では、企業の成長時と低迷時にそれぞれ異なる要因で発生する資金繰り悪化について、具体的な例を挙げながら解説しました。次章では、資金繰りの悪化度合いをどのように確認し、どの程度の危険があるかを見極める方法について詳しく説明していきます。
資金繰り悪化の度合いを知る
資金繰りの悪化度合いを把握するための重要な指標として、現預金月商倍率を使います。これは「現預金残高を月商で割った数値」で、企業がどの程度の現金を持ち、月の売上に対してどれくらいの資金余力があるかを示します。以下の「軽度」「中度」「重度」の3段階に分けて、それぞれの現預金月商倍率をもとに、具体的な数値と兆候をまとめます。
軽度の資金繰り悪化
現時点での影響は小さいが、早めの対策が求められます。状況を放置すると、中度・重度に進行する可能性があります。
指標の目安 | 現預金月商倍率 1.5倍以上。 |
具体的な症状 | 手元資金にある程度の余裕はあるが、収支が赤字になり始める。 |
中度の資金繰り悪化
手元資金が減少し、支払いが厳しくなり始める段階です。売掛金の回収がさらに遅れ、資金繰りの余裕がなくなります。
指標の目安 | 現預金月商倍率 1.0~1.5倍未満。 |
具体的な症状 | 手元資金が減少し、支払いが厳しくなる。 |
重度の資金繰り悪化
手元資金が枯渇し、支払いが滞る状態です。追加融資が難しくなり、事業継続が危ぶまれる段階です。
指標の目安 | 現預金月商倍率 1.0倍未満。 例: 月商500万円の場合、現預金500万円未満の状態。 |
具体的な症状 | 支払いが滞り、金融機関からの追加融資が厳しくなる。 従業員給与や仕入先への支払いができなくなる。 債務整理や法的整理の検討が必要な状況。 |
資金繰り悪化の主な要因
資金繰りが悪化する原因は、経営のさまざまな要素に起因しています。中小企業においては、以下の要因が特に資金繰りに大きな影響を与えます。これらの要因を把握し、早めに対策を取ることが重要です。
運転資金の増加
運転資金の増加が適切に管理されない場合、資金繰りに大きな影響を与えます。特に、売掛金の回収期間が長引いたり、在庫が過剰になると、資金繰りが悪化します。これは、業績拡大時に陥りやすく、業績拡大時は、売掛金の入金よりも早く、仕入などの先行資金が必要になり、運転資金が増加することで一時的に資金繰りが悪化する要因となります。
- 売掛金の増加
中小企業の平均的な売掛金回収期間は、30~60日が目安です。回収期間が60日を超えると、手元資金が不足するリスクが高まります。 - 在庫の増加
在庫回転率が低下し1~2回になると、資金が在庫に固定され、現金不足を招きます。季節商品や大量仕入れによる在庫増加が大きな影響を与えます。 - 仕入サイクルのズレ
仕入先への支払いサイトが短い(30日以下)場合、運転資金が不足するリスクが高まります。
売上減少
売上の減少が資金繰りに与える影響は大きいです。
固定費の負担増加: 固定費が売上に対して高い割合を占める場合、売上が減少すると直ちに資金繰りに悪影響を及ぼします。
借入金の返済負担の増加: 売上が減少すると、借入金の返済が難しくなり、資金繰りが悪化します。
資金調達の難化: 売上が低迷していると、金融機関からの信用が低下し、追加融資が難しくなります。
過度な設備投資
設備投資が過剰になると、資金繰りを圧迫します。
- 資金の固定化
設備投資によって、企業の現金が固定化され、手元資金が枯渇するリスクがあります。 - 収益とのタイムラグ
設備投資の回収期間は一般的に3~5年ですが、その間の資金繰り計画が甘いと資金繰りが悪化します。
過剰債務
適度な借入は必要ですが、過剰な債務は資金繰りを悪化させます。借入金月商倍率(借入金÷月商)が製造業の場合6倍、その他の業種で4倍を超えると、返済負担が過剰となり注意が必要となります
- 利息負担の増加
売上高支払利息率(支払利息÷売上高)が1%を超えると、支払利息の増加により、利益が圧迫されます。 - 返済能力の不足
元本返済の負担の増加により現金流出が続き、資金繰りが不安定化します。借入金の返済が滞ると、金融機関からの信用が低下し、追加融資が難しくなります。
資金繰り改善の基本的アプローチ
資金繰りの悪化を改善するためには、まずその原因を理解し、適切な対策を講じることが重要です。ここでは、資金繰り改善のため、金融機関や専門家に相談する場合、または自社で進める場合のいずれにも役立つ改善方法とアプローチをご紹介します。
無駄なコスト削減
経費削減は資金繰りを改善するための最も手軽な方法の一つです。経費の見直しを行う際、まず着目すべきは「3K+Z」です。これは、広告宣伝費、交際費、旅費交通費、雑費の頭文字を取ったものです。これらの費用は見過ごされがちですが、削減余地が大きく、積み重ねると経営に大きな効果があります。
- 広告宣伝費
効果が見込めない広告を続けていないか、あるいは費用対効果が低い手法に多額の費用をかけていないかを確認しましょう。例えば、紙媒体の広告をデジタルマーケティングに切り替えるなど、少ないコストでより高い効果を狙える方法を検討することが重要です。 - 交際費
接待や贈答品などの費用が企業間取引においては必要ですが、過剰な支出がある場合は削減が可能です。例えば、頻繁な高額接待を見直し、適切な頻度と内容に調整することでコスト削減が見込めます。売上、利益につながらないコストは、ただの浪費です。 - 交通費
不要な出張がないか確認し、オンライン会議などのデジタルツールを活用することで、出張の回数や距離を減らすことができます。 - 雑費
見落とされがちな雑費には、小さな金額の支出が積み重なるため、定期的に精査することが必要です。備品、消耗品の購入方法を見直すことで、無駄な支出を抑えることができます。定期的にサプライヤーとの価格交渉を行い、より良い条件を得ることも効果的です。
固定経費を削減することで、現金流出を抑え、短期的な資金繰りの改善を図ることが可能です。
入金サイト短縮・支払いサイト延長の交渉
取引先との交渉を通じて、入金サイトを短縮し、支払いサイトを延長することは、資金繰りの改善に非常に効果的な手段です。これにより、短期間で資金を手元に残し、現金不足のリスクを軽減することができます。
- 入金サイトの短縮
入金サイト(売掛金の回収期間)を短縮することで、現金の早期回収が可能となり、資金繰りの改善に直結します。顧客との取引条件を見直し、早期入金を促すための特典を提供することも一つの方法です。
- 支払いサイトの延長
仕入先に対して、支払いサイト(買掛金の支払い期間)を延長する交渉を行うことで、手元資金を長く保持できます。特に、長年の取引先や信頼関係のある仕入先との交渉は、比較的スムーズに進むことが多いです。支払い猶予を数週間でも延長することで、資金繰りが安定します。
成功のためのポイント
入金サイトの短縮や支払いサイトの延長は、交渉力と信頼関係が重要です。取引先との長期的な関係を大切にしながら、ウィンウィンの条件を提示する必要があります。
在庫削減
過剰な在庫は資金を滞留させ、資金繰りに負担をかける大きな要因です。特に回転率が低い在庫は、売上につながらず、固定資産として資金が眠ったままになります。在庫回転率(売上高÷棚卸資産)を適切に管理し、不要在庫を処分することで、資金を効率的に活用できます。
- 不良在庫の現金化
在庫回転率が10回以下の低い商品については、早急に処分し、現金化を図ることが重要です。特価販売や在庫一掃セールを実施し、資金を手元に戻すことで、運転資金を確保することが可能です。また、不要な在庫を持たないためには、需要予測や発注管理を見直し、適正在庫を維持することが大切です。 - 在庫回転率の向上
在庫回転率が低いということは、商品が売れ残っている状態を示します。回転率を向上させるためには、商品ラインナップを見直し、売れ筋商品の在庫を増やし、不人気商品を減らすことが効果的です。さらに、定期的な在庫の見直しと仕入れの適正化を行うことで、在庫管理の効率化を図ることができます。
金融支援を受ける(融資やリファイナンス、リスケ)
資金繰りが厳しくなった際、金融支援を受けることは経営改善に向けた強力な手段です。特に、融資やリファイナンス(借り換え)、リスケジュール(リスケ)を活用することで、資金繰りの改善に必要な時間を確保することができます。しかし、これらの手段を効果的に活用するには、慎重な計画と金融機関との交渉が不可欠です。
※注意! 金融支援は、自力での改善が難しい企業にとって強力な手段ですが、金融機関との交渉の難易度が高くなるケースが多く、提出資料や計画書が求められることが一般的です。特に、計画性のない追加融資や安易なリスケジュールは、かえって資金繰りを悪化させるリスクがあり、最悪の場合、資金ショートに陥る危険性があります。これらの手段を利用する際には、十分な準備と慎重な対応が求められます。 |
①追加融資
資金繰りが深刻な場合、新規融資を検討することは有効ですが、無計画な追加融資は返済負担を増加させ、資金繰りの悪化を招く恐れがあります。借入額や返済スケジュールを慎重に計画し、長期的な資金繰りを見据えた上で資金調達を行うことが重要です。
②リファイナンス
リファイナンスとは、既存の借入金を新しい条件で借り換えることにより、返済期間の延長や追加融資を組み合わせることで、毎月の返済負担を軽減し、資金繰りを改善する手段です。
- 返済期間の延長
返済期間を延長することで、毎月の返済額を大幅に削減することができます。例えば、返済期間を5年から10年に延長し、毎月の返済額を100万円から50万円に減らすといった方法です。このように返済負担を軽減することで、削減された資金を運転資金として活用する余裕が生まれ、資金繰りの改善に繋がります。
③リスケジュール(リスケ)
リスケジュール(リスケ)とは、借入金の返済条件を見直し、返済期間を延長したり、元本返済を一時的に据え置いたりすることで、毎月の返済負担を軽減する手段です。リスケを行うことで一時的に資金繰りを改善することが可能ですが、注意点として、リスケ後は原則として新規の借り入れが難しくなることがあります。そのため、リスケを依頼する際には、慎重に資金繰りの計画を立てることが重要です。
過去には、安易な判断でリスケ(借入金返済条件の見直し)を行った結果、運転資金の増加など突発的な資金ニーズに対応できず、資金ショート寸前に追い込まれた事例があります。また、リスケの対応が遅れたことで、会社の体力が消耗し、経営改善に必要な時間を確保できず、最終的に倒産に至ったケースも多く見られます。
このようなリスクを回避するためには、資金計画を十分に検討し、長期的な資金繰りの見通しを立てることが重要です。専門家の助言を活用し、状況に応じた適切なアプローチでリスケを進めることが、経営を安定させる大きなポイントとなります。
※補足 当社は、国から認定を受けた認定支援機関として、経営計画書の策定や金融機関との交渉をサポートしています。これにより、リスケジュールの合意を取り付け、3~5年の計画に基づいて経営改善に取り組んだ結果、正常化(リスケ状態から当初の約定返済に戻ること)に至った事例も多くあります。また、正常化した後に新たに融資を受けられた事例もあります。 |
自己判断はNG!資金繰りに不安を感じたら早急に対応を
資金繰りに不安を感じたら、問題を先延ばしにせず、早急に対応することが何よりも重要です。資金繰りの問題は放置しても自然に改善することはなく、むしろ状況が悪化してしまうリスクが高まります。特に中小企業の場合、手元資金に限りがあるため、迅速な対応が経営の安定に直結します。事実、資金繰りの問題は初期段階で適切な対策を講じることで、多くのケースで回避可能です。
自己判断による経営ミスが企業存続に及ぼす悪影響
以下は、自己判断による誤った対応が企業に与える具体的な悪影響の例です。
- 無理な借入れ
売掛金の回収が遅れている場合、それを補填するために無理な借入を行うと、返済負担が増え、手元資金がさらに減少してしまうリスクがあります。 - 資産の早急な売却
一時的な現金確保のために、機械や設備などの重要な資産を売却すると、事業拡大の機会を失う可能性が高まります。 - 過剰な支払い猶予の交渉
取引先に過度な支払い猶予を求めた場合、信用を損ない、今後の取引に制限がかかることがあります。
これらの誤った判断は、短期的な解決策には見えても、長期的には経営に深刻なダメージを与える危険性が高いのです。
資金繰りの異変に気付いたら専門家に相談を
資金繰りは企業の健全な経営を維持するための生命線です。わずかな異変や不安を感じた段階で、自己判断による対応を避け、早急に専門家の助言を求めることが、経営の安定につながります。資金繰りの悪化は初期段階での対応によって、深刻な事態を防ぐことが可能です。
株式会社フラッグシップ経営のサポート
当社は国から認定された「認定支援機関」として、豊富な経験と中小企業診断士資格を有する専門家が、経営者の課題解決を全面的にサポートします。無料相談を通じて、現状の問題点を明確化し、最適な改善策をご提案します。資金繰りに不安を感じた場合、まずはお気軽にご相談ください。
ご相談時に用意いただくとスムーズな資料
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